Center’s Note

4年ぶりの宿泊型新任教員研修を終えて:
第40回北海道大学教育ワークショップ

2024年1月9日 
立花 優(FD部門副部門長)

 北海道大学では、本学(および北海道FDSD協議会加盟校)の新任教員を対象に、毎年「北海道大学教育ワークショップ」を実施しています。この宿泊型ワークショップは1998年から本学で実施されてきたものです。2007年度からは1日コースの「新任教員研修会」と統合し、対象を中堅教員から赴任5年以内の若手教員に変更して春秋2回の開催となりました。教育のための知識や技法を一方的に受講するのではなく、ワークショップ形式で参加者が討論を通じ授業設計やシラバスの作成方法を学ぶスタイルをとる本ワークショップは、北大型ファカルティディベロップメント(FD)の中核を担うものと位置付けられてきました1)
 この「宿泊型新任研修」という特色ある研修は、コロナ禍を受けて中断を余儀なくされていたのですが、2023年10月6日・7日の2日間の日程で4年ぶりに再開することができました。私自身は2016年度に一参加者として参加の機会を頂きましたが、今回運営側として初めて関わりました。このコラムでは、再開に向けた動きと当日の様子、参加者の声をまとめます。

企画と準備

 再開に向けた話は2022年初春からあったものの、具体的に進み始めたのは2022年度末でした。対象者をコロナ禍の間に着任した本学教員を対象とすることは早々に決まった一方、コロナ禍以降の社会情勢の変化の影響を受けた宿泊・交通費の上昇、また宿泊需要の激増もあり、研修場所となるホテルの確保は難航しました。このため、6月の再開は断念し、秋に再開することが確定しました。
 従来は「教育ワークショップ」であることを前面に掲げ、1泊2日の研修内でシラバス作成や授業設計、模擬授業などの内容をみっちりとこなすメニューでした。大変内容が濃く、学びの多い研修でしたが、参加者にとっても運営側にとってもきわめて負担の大きいものであったことは否めません。またこの間、組織改編もあり、大学院教育推進機構として新たな企画を立てる必要性も出てきていました。そこで、今回の研修再開にあたって大学院教育推進機構オープンエデュケーションセンター、および学生相談総合センターの協力を仰ぎ、教育改善にかかわる本学の教員支援体制、本学学生への対応の際に有益な情報の提供と相談窓口の紹介を軸とした企画を立てました。

当日

 ワークショップには15部局から計26名の新任教員が参加しました。スケジュールは以下の通りです。

 いずれのパートもレクチャーとグループディスカッションないし質疑応答を軸に組み立てられました。私は、「北大の総合入試の実態、北大生の特徴」のパートを担当し、本学の特色ある入試制度である総合入試制度および学部学科等移行について、制度の概要、相談ケースからうかがえる学生の状況、アンケート調査から示唆される学生の受け止め方を中心にレクチャーしました。また、学生生活の充実度と強い相関を持つ課外活動や人間関係について、学生生活実態調査をもとに情報を紹介しました。

 研修中、参加者が各グループで研究紹介を行い、お互いの研究を知る機会を2度設けました。当人同士は初対面だったものの、研究紹介をきっかけに共通の知人研究者が存在することがわかって話がはずんだり、質疑応答から自身の研究に有意義な情報が思いがけず得られ、一気に打ち解けた雰囲気になったりするなど、参加者は互いの紹介に興味を持ち、親睦を深めていました。

おわりに:宿泊型新任研修という特色ある研修の意義と今後

 参加者からは、「なんとなくは知っていたが、詳細は知らなかった教育関係の知識を多く学べた」「講義を作成する中で授業計画の方法、さらに得られるサポートを知る事ができ有意義だった」といった評価を頂きました。また、「受動的な講義だけではなく、「適切な量」のアウトプットが要求されるワークショップで非常に充実したものとなりました」といった声が寄せられ、内容・作業量ともに参加者から好評だったと考えます。
 参加者からの声で目立ったのが、「他学部の先生方と交流を持てたこと、情報交換をできたことがとても良かった」「他学部の先生の研究紹介や討論はとても有意義な時間だった」といった、他部局教員との交流の機会に対する高評価でした。教員に対する支援体制の情報を提供するとともに、部局を越えた交流の場を提供できたことで、教員の孤立を防ぎ、大学全体をとらえる視野を持つきっかけにつながるのではと期待しています。
 「内容も含めて実施環境が良かった」という声もありました。ネット環境がある以上、日常業務から完全に遮断されることは難しいですが、それでも非日常下で研修に参加することでより深く取り組むことができたのではないかと考えます。
 本学で日々行われている教員支援・教育改善の取り組みに本学新任教員をつなげる最初のステップとして、この宿泊型新任研修を位置付けていければと考えています。 

1)竹山幸作、細川敏幸、山田邦雅、山岸みどり、鈴木誠、三上直之(2014)「北海道大学教育ワークショップ報告(第20〜22回)」『高等教育ジャーナル : 高等教育と生涯学習』 21号、pp.91-116.

 以下では、運営スタッフの一人が一参加者としての視点からまとめた参加記を紹介します。


参加記

太田とも美(学術研究員)

 私は2021年度から北海道大学高等教育研修センターでの勤務を始めたため、初任者と近い立場で今回参加しました。このワークショップで得た知識は、北海道大学の教員としての職務において非常に役立つものでした。
 最初に北海道大学の独自の入試システムや総合入試制度に関する包括的な説明があり、アンケートに基づく学生プロファイルの概要が示されました。これにより、初年度の学部生が専攻を選ぶプロセスやその難しさに対する理解が深まりました。
 さらに、学生総合相談センターのような学生への支援部門だけでなく、OEC(オープンエデュケーションセンター)のような教員を支える組織とその活動が紹介されました。教員が成長し、学生に質の高い教育を提供するための多岐にわたるリソースに触れることができ、その支援の幅広さに感銘を受けました。
 2日間のワークショップでは、グループ替えが行われ、その都度自己紹介を兼ねた研究分野に関するプレゼンが行われました。これを通じて、異なる研究分野の先生方と直接交流でき、自身の研究についても発表する機会が得られました。おかげで、その後の各セッションのグループでの共同課題に取り組む際、充実した意見交換が行われました。
 情報交換会では、同じグループ以外の先生方とも研究や授業について相談でき、業務において非常に有益な情報を得ることができました。業務以外のことも話したりして、とても楽しかったです。これらの経験を通じ、北海道大学教育ワークショップは学際的な交流だけでなく、個々の成長やネットワーキングの場として非常に有意義なものでした。