Center’s Note

大学コンソーシアム京都第29回FDフォーラム参加報告

2024年3月30日

 2024年2月23日~24日、当センターのスタッフは大学コンソーシアム京都主催の第29回FDフォーラム「DX・AI時代の高等教育のゆくえ」に参加しました。本フォーラムは企画・運営ともに大変洗練されており、当センターが関わる北海道FDSD協議会のフォーラムの企画・運営を考えるうえで、一つの理想形とも言える催事です。今回のフォーラムはコロナ禍以降初の対面中心でのハイブリッド開催であり、当センターからは対面でセンター教員と研究員、事務職員が、オンラインで事務職員が参加しました。 以下は対面で参加した3名の参加記です。

立花 優(FD部門副部門長)

シンポジウム「学びの連続体へのまなざし~生成系AIへの耐性・代替不可能性を求めて」
 シンポジウムはキャンパスプラザ京都第2講義室を会場として行われ、多くの参加者が集まりました。会場内には書籍販売ブースも設置され、対面参加者が実際に手に取って購入できるようになっていました。
 講演で特に印象に残ったのは、「無意識のうちに自分の教育成功体験を基準に考えていないか?」「学生は、私たちが経験したことのない世の中を生きる人だということを忘れないように」との提言でした。目の前にいる学生を基準に学びを考えることが重要との指摘から、教育に完成形はないとの思いを強くしました。
 「「変化に対応できる人材」ではなく「変化を作り出す人材」であるべき」との指摘も大変刺激的でしたが、一方で先の世代は後の世代に何を残すのかという「継承」の観点、変化の速い時代において「変化しないもの」への視点も議論に必要ではなかったかという印象を持ちました。
 その点で、不存在という形での言及でしたが「思いやパッション」は思考の足がかりになるでしょう。この関連で述べられた「学生は最近になるにしたがって自己紹介がスペックの話ばかりになってきている」「自分をスペックの集合体として認識している」という指摘は私も感じているところであり、非常に根深い問題です。

分科会:第3・第7・第9分科会への参加から
 第3分科会「大学教育におけるAIの活用ならびにその弊害」は、AIの仕組みやできること、できないこと、講義でのAIの活用事例、教育支援や今後の大学教育、身につけるべき技量などについて議論するセッションでした。
 ハルシネーションの問題から利用には批判的な目を持つことが重要だが、学生は無批判に利用しがちであり、出力結果を常に批判的に評価するよう注意喚起が必要、「自分ができないことはAIにやらせない」というのは1つの考え方である/「プログラムが組めているか」だけでなく、「なぜそういうプログラムにしたのか」「どういうものなのか」を説明させ、それを評価するという評価の問題が重要である(教員の負担は大きくなるが)/協働的な学び、個別最適化には、(現状の生成AIは)そのままでは難しいのではないか、といった議論は大変刺激的でした。
 第7分科会「大学教育でICTでALしよう!」は、大学教育においてともに推奨されているICTとアクティブラーニング(AL)の活用事例を紹介するセッションでした。
 大規模授業・少人数授業それぞれにおけるICTの活用の条件、アクティブラーニングのためのオンラインツール選定の観点・活用事例という興味深い報告がなされました。一方、学生によってはアクティブラーニング、特にグループワークに抵抗があり、そうした学生は授業から脱落してしまうという問題が残っていること、教室設備や学生が所有する端末の有無・ばらつき、学生のICTスキルのばらつきの問題を考慮する必要があることが浮かび上がりました。
 最後に参加したのは、第9分科会「授業評価アンケートの自由記述の自動分類とその応用」です。テキストデータ分析のメリット・デメリットを踏まえたうえで、授業評価アンケートに特化して作成したトピックモデルの自動化ツールを参加者に披露し、各参加者が持参した授業評価アンケートデータに対して実際にツールを試してみるというワークショップ形式のセッションでした。
 分科会を通して、様々な技術・知見はそのままでは現場への適用が難しく、UIやシステム、サポートといった面での何らかの工夫・デザインが必要だと実感しました。今回のフォーラムで紹介された実践事例の多くは情報系学部や大学院での取り組みであり、設備や所有端末、学生のICTスキルといった点で、広く援用する際にはより注意が必要であると考えます。また、なぜAIやツールを用いるのかについて、教育目的の明確化/教育目的との関係性の明確化が必要です。これは端的には授業の再設計ということになるでしょう。ここに、今後のFD活動のポイントの一つがあるように思われました。

ポスターセッションへの参加
 初の対面参加であったため、参加の方々との情報交換を図るべく情報交換会の会場に入ったのですが、同会場で行われていたポスターセッションに引き込まれました。参加学生の「情熱・パッション」が存分に感じられるポスターセッションでした。私からは、紹介された様々な活動への参加経験が正課での学びの意識・意欲にどう結び付いたか・影響したかという観点から質問を投げました。残念ながら時間の関係ですべてのセッションを拝聴することはできませんでしたが、皆さんから熱意を分けて頂き、対面で参加できてよかったと思える時間の一つでした。ありがとうございました。

おわりに
 本フォーラムはハイブリッド開催でしたが機材など大きなトラブルもなく、円滑に運営されていました。ストレスのない参加体験は、参加者を内容により引き込むためにも重要です。現地でスタッフの方々の動きも含め、企画・運営について見聞を広めることができたのは有益でした。対面とオンラインで参加したことで得られた知見を、今後の北海道FDSDフォーラムの運営に活かしていければと思います。

太田 とも美 (学術研究員)

第一分科会「身構えないで学べる授業環境の構築を目指して」に参加して
 現代の大学教育では、単に何を教えるかだけでなく、学生がどのように学修するかにも焦点が移っています。そのため、私は学生の実態を知ることが重要だと感じこの分科会に参加しました。
分科会での議論から、心理的安全性が学生にとって極めて重要であることが明らかにされました。学習者が自発的に発言し、行動することが求められるAL(Active Learning)の実践においては、学習空間の心理的安全性を保証することが不可欠だと認識しました。自分の4月からの講義に向けて心理的安全性を高めるような授業デザインの見直しに取り組みました。
 また、講師の山田剛史先生(関西大学)が実践する方法を通じて、学生のエンゲージメントをどのように高めるかを学びました。どのような形の講義であっても、学生の高いエンゲージメントは学生の成長を促進する上で極めて重要な要素なのだと再認識できました。心理的安全性を確保し、学生が自ら学びを深める環境を構築することは、教育の未来においても重要な課題です。大学の心理的安全性向上に向けて私自身もこの分科会で学んだことを実践します。

第5分科会「ことばの教育はいかに変わる”べき”か」に参加して
 生成AIを活用する今後の言語教育のあり方について深く考える機会を得ました。言語教育においては、生成AIと共存は不可避という潮流があること、また母語を活用した言語教育の重要性が強調されました。現在、英語は(できるだけ)英語を用いて教えることが学習指導要領でも求められていますが、生成AIの台頭により、母語で深く考え、アウトプットの体裁を整える形で生成AIを使うことも可能となりました。そのため、特にライティング課題の評価が難しくなる問題や、講師が何を教え、どのように評価するのかを明確にし、学生と共有することの意義が強調されました。
 あわせて言語を教えることはその文化にも触れることになりますが、文化などの複雑な要素を扱う際には教員の役割が不可欠であることが指摘されました。

 今回の分科会では、言語教育の将来に向けて新たな視点が提示され、言語教育のあり方について深い洞察を得ることができました。これらの議論を大学教育に活かし、より質の高い言語教育を提供していくことが重要であると感じます。

Michal MAZUR (Asst. Prof.)

The rapid evolution of Artificial Intelligence (AI) is reshaping higher education settings, where the imperative for integrating cutting-edge technologies with traditional teaching methodologies is increasingly pronounced. My observations from attending the 29th FD Forum highlight the multifaceted role of AI in universities, focusing on curriculum development, pedagogical strategies, and broader educational objectives.

Mastering AI Usage 
 Educational institutions are currently grappling with the integration of AI into their curricula. AI technologies have seen significant advancements in text generation, image creation, translation, and recognition. However, the application of AI in education goes beyond mere adoption. Prof. Suzuki from Osaka Institute of Technology stated that "it requires a deep understanding of AI's characteristics and limitations". AI operates based on learned data, lacking deep thought or originality and may inadvertently present inaccuracies.
 Thus, educators should approach AI as a tool that needs supervision, much like an underperforming subordinate, and not as an infallible solution. The main challenge is teaching educators about these issues and making sure they think critically about what AI comes up with instead of just taking it as truth.

Exploring Practical Implementations 
 Tokushima University offered a glimpse into the practical application of AI in academic settings. Their curriculum spans specialized subjects like "Introduction to Computers and Exercises" and "STEM Exercises" in the Faculty of Engineering, to general education courses like "Introduction to Information Science."
 A standout component is the "Comprehensive AI Exercises" course, designed to deepen students' understanding of AI through intensive Python exercises. Though labelled as general education, this course offers advanced content tailored to individual paces and focuses on AI concepts rather than just programming errors. This approach equips students with technical skills and prepares them for real-world AI applications.

Enhancing Programming Education 
  The role of Large Language Models (LLMs) like ChatGPT in programming education, discussed by Prof. Makihara from Ritsumeikan University, illustrates a significant shift. LLMs facilitate natural language processing and can automate the generation and correction of code, alleviating burdens in software development education. By incorporating LLMs into Project-Based Learning (PBL), educational institutions enable students to tackle real-world tasks more efficiently.
 However, this raises questions about the impact on learning outcomes and the dependency on automated solutions. Balancing AI assistance with developing critical thinking and problem-solving skills is a challenge to face.

ICT Integration in Education
  The 29th FD Forum highlighted the importance of using Information and Communication Technology (ICT) to make learning more interactive. Kyoto University of Advanced Science offered various solutions, e.g. suggested using smartphones for fun activities and digital forms to understand what students like. This approach helps when there's not enough equipment and makes learning more lively, which helps students get more involved.
 Transitioning group projects online, especially for design courses, illustrates the evolution of group learning. Selecting and using the right online tools becomes crucial for effective teamwork and optimal learning outcomes in technology-supported classrooms.