Notionを業務で活用する:高等教育研修センターのDX
2024年6月24日
立花 優(FD部門副部門長)
はじめに
高等教育研修センターFD部門(以下、当部門)の業務は多岐にわたります。 当部門が主催・共催する研修は年間30~40回程度あり、所属教員は研修講師のほかコンサルティングや依頼講演にも対応しています。研修そのものの実施に加えて毎回ウェブサイトやポスターでの広報、参加登録の管理、研修参加後アンケートの実施、事業報告のとりまとめなど、細かな関連業務があります。また、当部門は毎年北海道FDSD協議会が主催する「北海道FDSDフォーラム」の実働部隊としての機能も果たしています。これらに加えて、オンライン授業や生成AIに関する学内アンケート、ハイフレックス型授業支援事業といった、緊急性・重要性の高い事業を機動的に実施してきました。
こうした業務を、教員3名、研究員、事務職員の計8名の体制で担ってきました(2024年4月から新たに教員1名が加わり、現在9名となっています)。開所10周年が近づくセンターの業務は年々拡大しており、次のステップに向けてさらなる業務効率化は喫緊の課題となっていました。
導入の経緯
業務効率化の最大のカギとなる、すなわち最大の問題となっていたのは、コミュニケーション・情報の伝達の問題でした。 コロナ禍の緊急対応を機に「フロー型1)」情報ツールであるSlackを利用していましたが、情報共有に問題・限界を感じていました。Slackはリアルタイムで高鮮度、メールよりも格段に便利なツールですが、情報が流れていくためたまりづらく、結果、議論が発散する傾向があります。また、この特徴により、あとから情報をフォローアップするのが非常に困難かつ面倒となっていました。もちろんSlackなどの「フロー型」ツールでも、運用方法によってある程度こうした問題を解決することは可能かもしれません。残念ながら当部門はそこまでには至らなかった、ということになります。
問題を認識しつつも解決策が見えないままでしたが、偶然ここにつながったのがクラウド型情報ツール「Notion」の存在です。きっかけは、私自身が研究で使うための良い文献管理・メモツール・サービスがないか探していたことでした。そんな中、2023年の春~夏にChoimirai School のアン・サンミンさんから紹介されたのがNotionでした。同じころ(7~8月)、NIIのDXシンポで行われたアンケート結果の共有でNotionが活用されていたことも、情報整理・共有ツールとしてのNotionの可能性を私が強く意識するきっかけになりました。また、文献管理については東京大学の吉田塁先生によるZoteroの紹介も参考にしながらツールを導入し、Notionの拡張性の高さにも注目するようになりました。2023年の秋から冬には当部門の教員も個々にNotionを使い始め、業務活用の可能性を模索するようになっていきました。
こうした経緯を経て、2024年2月、Notionを軸として当部門の業務を運営していくことに決定しました。私がプロジェクトとタスクを管理するための試行版データベースを作成し、そこで実際の業務を動かしながら必要な項目・内容を検討・追加して改良していき、1か月ほどで業務管理の基盤を構築しました。基盤構築に際しては、Northsand社が提供する資料や様々な企業の導入事例紹介2)のほか、「Notionアンバサダー」による解説動画3)も参考としました。
Notionチームスペースの運用
当部門ではNotionの教育プラン(無料)を利用しています。運用方法として、作成したチームスペースに所員が「ゲスト」として参加する方法を採りました。
当部門の業務は大きく「研修」と、それ以外の管理業務に大別されます。このことから、1つの研修、1つの管理業務(例えば、研修動画公開ページの管理など)を「プロジェクト」と位置づけました。そしてプロジェクトに直結した、期限やゴールが明確に設定された具体的な作業を「タスク」と規定し、「プロジェクト」と「タスク」をそれぞれの「データベース」に登録して「リレーション機能」で結び付け、管理する体制を構築しました。各プロジェクト内に設定されたタスクが完了すると進捗率が100%に近づいていき、100%になればそのプロジェクトは完了する、という流れです。 各タスクには担当が配置され、進捗はタスクに割り当てられたNotionページで確認し、判断や相互チェック依頼も原則としてそのタスクのページ上でやり取りしています。
また、当部門が関係するすべてのミーティングの内容をまとめる「議事録」データベースも作成し、毎回のミーティング記録を管理しています。
新しいツールを導入することで得られたメリット
1つ目は、認識されていた問題点が解消に向かっていることです。「ストック型」情報ツールのNotionをベースとすることで、議論がタスクベースとなりました。それまでは各自がとっていただけのメモをNotion上で一元化・共有することで認識の齟齬が解消されつつあり、また所員もそのことを意識するようになっています。タスク・プロジェクト単位で作成されたページと議事録に情報が集積され、所員が所内業務を容易にフォローアップできるようになりました。Notion上での非同期の議論も行われています。
もう1つのメリットは、認識されていなかった問題点の把握です。様々なレベルでの業務の見直しにつながるだけでなく、タスクの洗い出しと整理が起こりました。毎回の研修で共通するタスクはNotionページ上でまとめられ、システム化・フォーマット化が進みました。
Notionを導入したことで、所員からは「自身が抱えるタスクの総量が可視化され自己管理が容易となった」「ほかの所員のタスクも可視化され相互に協力しやすくなった」「各プロジェクトの全体像が可視化されたことで、各員が次のタスク・長期的なスケジュールを明確に意識できるようになった」といった声が聞かれます。
新しいツール導入にまつわる問題
こうした新しいツールを導入する際には、問題や懸念もつきものです。最大の問題は、これまで使っていたツールとの関係をどう構築するか、どう接合するか、という点です。私個人としては、様々なツールをこれまで通り併用するのではなく、なるべくNotion上で済むような状態まで到達するのが理想だと考えますが、対外的な関係もあり、なかなか難しい部分もあります。しかし少なくとも所内においては、できるだけNotion上で業務を行うことで、これまで抱えていた問題を改善できると考えています。
新しいツールに所員全員が習熟するのに時間を要することも問題です。実際、当部門においてもNotionの活用にまだ不安を感じる所員が少なくありません。個人が持つICTスキルの高低も大きく影響しています。「文化」として定着させていけるかは、導入によるメリットをより深く所員全体に感じてもらえるか、不得意だと感じる所員を取り残さないような仕掛けを作れるか、にかかっているでしょう。
見逃せないのは、そもそも次々と登場する新しいツールについて、何を、いつから導入すべきかの判断が難しいことです。情報は限られており、情報収集の時間も十分ではありません。ここについてはうまい解決法というのはなく、究極的には試してみるしかありません。そして「試すならできる限り早く」ということなのだろうと思います。
おわりに
Notionはただのメモツールではありません。最大の特徴はデータベース機能を持つことです。多くの解説でも述べられていますが、このデータベース機能をできるだけ活用することがポイントとなります。しかし、このデータベースがNotion導入時の躓きにもなりやすいようです。使いながら改善していくにしても、最初の段階で基本設計はしっかりと作っておくのがカギになりそうです。公開されているタスク管理やプロジェクト管理のテンプレート、解説記事や動画を参照しておくとよいでしょう。公開されているテンプレートをただ持ってくるだけでなく、ニーズに合わせてカスタマイズできるようになっておくのが理想的です。
Notionを業務に導入することによって当部門に起きた変化は、単にツールを置き換えただけにとどまらない、まさにDX(デジタルトランスフォーメーション)というにふさわしいものでした。もちろん、まだ変化は始まったばかりであり、これからも新しいものに挑戦し、発信していくセンターであり続けたいと考えています。
1) 本投稿における「フロー型」「ストック型」の整理は、近藤容司郎(2020)『わかる、Notion 徹底入門(第1.1版)』Nouthsand によりました。
2) ウェブサイト上の事例紹介を参照したほか、ウェビナーにも参加しました。
3) Youtube上ではNotionアンバサダーによる様々な解説動画があり、たいていの場合実際にページを作成しながら解説されています。準備段階で私が特に参考にしたのは以下のYoutubeチャンネルでした。
・Tsuburaya | 少しマニアックな Notion の使い方解説