「Notionを業務で活用する」の1年後:高等教育研修センターのDX現在地
2025年9月29日
立花 優(FD部門副部門長)
今から1年と少し前、「Notionを業務で活用する:高等教育研修センターのDX」という記事を公開しました。この記事では、私たちのセンターが業務支援の一環としてNotionをどのように導入しはじめたか、初期段階の構築や可能性についてまとめました。
それから1年。Notionの導入は単なる試みではなく、日々の業務の中で徐々に形を変えながら、私たちにとっての「基盤ツール」として根付いてきました。
今回は続編として、この1年間で取り組んだ具体的な業務改善の事例をご紹介します。現場で使ってみてどうだったか、何を工夫したか、そしてどんな変化があったのかを記録しておくことは、同じように業務改善に取り組まれている方々へのヒントになるという意味でも価値があると思っています。
1. TallyとNotionをつないで、研修アンケートを一元化
当センターでは、研修終了後に受講者アンケートをお願いしています。以前は研修ごとにGoogleフォームを1件ずつ作成し、回答も研修ごとにバラバラに管理していました。
Notionに業務基盤を移行したのを機に、このアンケートの仕組みも見直すことにしました。選んだのは、Notionとの連携がスムーズなフォームツール「Tally」です。Tallyで作成したアンケートの回答は、「Integration」機能で直接Notionのデータベースに反映されるように設定できるため、情報の整理や共有が一気に楽になりました。
また、すべての研修で同じアンケートフォームを使い回す形式に移行しました。これにより、フォームを何度も作成する必要がなくなり、回答データも1つのデータベースに蓄積できるようになりました。
ただ、ここでひと工夫が必要でした。同じフォームを使っていると、どの回答がどの研修のものかが分からなくなってしまうのです。そこで、研修ごとにアンケートに識別用のパラメータをつけ、その値をもとに回答を分類する仕組みを取り入れました。これにより、後からNotion上で「この回答はどの研修のものか」が正しく判別できるようになりました。
2. Google Apps Scriptで、アンケートとプロジェクトを自動でひもづけ
当センターでは、各研修を1つの「プロジェクト」として管理しています。Notion上にはプロジェクトのデータベースがあり、そこから関連するタスクや資料、アンケート結果などがすべてリンクされるようになっています。
ただし、アンケート結果をプロジェクトに手動でひもづけるのは、件数が多いとどうしても手間がかかります。そこで導入したのが、Google Apps Script(GAS)を使った自動リレーション化の仕組みです。
具体的には、アンケートの中に埋め込んだパラメータをGASで読み取り、その値をもとにNotionのAPI経由で該当プロジェクトとアンケート回答を自動的にひもづける、という流れを構築しました。
これによって、対応する研修のプロジェクトページにアンケート回答がほぼリアルタイムで反映されるようになり、たとえば満足度スコアの平均値なども随時集計・表示されるようになりました。集計作業の手間がなくなっただけでなく、「どの研修でどんな反応があったか」をすぐに確認できるようになったことで、運営サイドの意思決定もスピードアップしています。
こうしたGoogle Apps Scriptのコードは、生成AI(もっぱらClaude)を利用して作成しました。生成AIサービスの登場と急速な進歩により、自分専用のツールを作成することが非常に容易になりつつあります。
3. GASを用いたアンケート結果報告の作成自動化
当センターでは、毎回の研修についてアンケート結果報告を作成しています。Notionデータベースで即時的にアンケート回答結果をチェックできるようになりましたが、事後の検証用・記録用としての報告資料も重要です。この報告資料の作成も、Google Apps Scriptで自動化しました。手動の作業として残るのは、自由記述回答の誤字脱字修正と、報告資料を作成したい研修の日付を選択するくらいで、あとは定型の報告資料が自動で作成され、ミーティング等で参照できるようになっています。従来はアンケート結果報告資料の作成に過大な工数がかかり、作成作業自体が目的化する傾向が見られましたが、真に重要なのは結果を次にどう生かすかを検討することです。
4. Notionをフィールドとした研修関連タスクの洗い出し・整理、標準化の続行と、その先の自動化
当センターの研修は対面・オンライン・ハイフレックスの3つのタイプがあります。それぞれについて、研修タスクを洗い出したうえで標準化し、各タスクでこなすべき内容をテンプレート化しました。研修企画が動き始めるとNotionのオートメーション機能によって関連タスクが自動でNotion上に配置されるようになっています。配置された各タスクページにはやるべきことがリストアップされており、担当所員はその内容を順番に遂行していく、という流れが作られています。
重要なのは「ここで終わり」ではなく、十分に業務の整理と構造化を行ったうえで各業務のプロセスを標準化したら、次は条件に合うものから自動化を検討することだと考えています。ここまでくれば、まさにDX(デジタル・トランスフォーメーション)といえるでしょう。

5. 実践の中で見えてきた課題と今後の検討
ここまでご紹介してきたように、Notionを中心とした業務設計は多くの利便性をもたらしていますが、すべてが順調だったわけではありません。運用を重ねる中で、いくつかの課題も見えてきました。
- 設計者だけがすべてを理解している状況がどうしても生じてしまう。
- 所員の作業習熟度やシステムの仕組みの理解度に差が生じており、その差が業務のスムーズさに直接的に影響している。
- さらに、ツールそのものよりも大きな課題として、「設計変更の影響範囲」が挙げられます。たとえばデータベース構造を改修すると、その影響が他のページや連携スクリプトに波及し、意図せぬ動作不良を招くこともありました。こうした変化を適切に文書化・共有し、チーム全体で理解する体制づくりも不可欠です。
このような課題に対しては、ツールにあわせるのではなく、自分たちの業務フローとの折り合いをつけながら「少しずつ最適化していく」姿勢が求められると感じています。今後は、運用マニュアルの整備や情報共有のしくみを含めた支援環境の拡充にも取り組んでいく予定です。
まとめ:Notionは「育てる」業務基盤
1年前にNotionを導入し始めた段階では、ここまで活用の幅が広がるとは想定していませんでした。しかしこの1年間で、当センターの業務システムはNotion単体から、TallyやGoogle Apps Scriptなどの別のツールとの連携によってさらに発展しました。Notionは個々の業務のデータ化・標準化の基盤として確実に根付いています。
2024年度、当センターは51の研修を実施しました。これだけの数の研修をコンスタントに実施し、参加者を集め、充実した学びの場を提供し続けるためには、効率的な組織運営が不可欠です。有限の人的リソースと避けられない人員交代を考えれば、業務の整理→標準化→自動化が持続可能な運営と研修のクオリティの維持・向上の両立を実現する鍵と考えています。
当センターでは、この一年余で育ててきたNotionを基盤とする業務システムに様々なツールを連携させながらDXをさらに進め、当センターに期待される役割を今後も高い水準で果たしていきたいと考えています。
