Center’s Note

部局の文脈に「効く」生成AI研修をどう届けるか:歯学研究院FD「授業に DX を!」講師参加記

2025年12月22日
立花 優(FD部門副部門長)

2025年9月11日・12日の二日間にわたって実施された本学歯学研究院FDワークショップ(以下、WS)「授業に DX を!」に、講師の一人として参加しました。

高等教育研修センター(以下、CTL)が提供してきた生成AIハンズオンの知見を、部局FDの文脈に合わせて再設計し、授業改善に直結する試作までを支援することが今回の私の役割でした。本記事では、依頼の経緯から当日の様子、そして「部局の文化」に触れて得られた示唆をまとめます。

経緯:CTLのコンテンツを部局向けに最適化する

きっかけは、CTL主催のハンズオン研修「教室に最適化されたAIをつくる」に、歯学研究院FDタスクフォースメンバーの佐藤先生が参加されたことでした。 研修後に佐藤先生から歯学研究院FDへの協力依頼を頂戴し、準備に入りました。ご依頼の内容から、前述のハンズオン研修の内容をベースに若干修正を加え、普段はCTL主催の全学FDになかなか参加する機会を持てない先生方にも生成AIのハンズオン研修をお届けする、というコンセプトとしました。

私が担当するのは2日目の午後のみでしたが、部局固有の課題や雰囲気を肌で感じるため、佐藤先生にお願いして全日程に参加させていただくことにしました。快く受け入れてくださったタスクフォースおよび参加者の先生方に感謝申し上げます。

26回の歴史が作る「対話の土壌」

1日目(9月11日)に参加して驚かされたのは、運営の周到さと参加者の熱量の高さです。 本形式のFDは今回で26回目を数えるとのことで、FDが完全に部局の文化として定着していました。

冒頭では、八若FD委員長やタスクフォースから、以下の「議論の前提」が明確に示されました。

  • WSの定義: 目標を定め、有効な討論を行い、成果(プロダクト)を出す集会
  • 今回の目的: 「私たちはDXをよく知らない」ということを自覚し、具体的にDXを知る。最終的な目標はDX実現のための準備だが「具体案の作成」までは踏み込まず、DX実現のための「方略の方向性」を見出すことを目的とする
  • 進行:ミニレクチャー、グループ作業、全体発表・討論の3つから構成する
  • 成功の原則: 肩書きを無視し、「さん」付けで対等に議論すること

これらが共有されているため、グループワークでは最初から議論が円滑に行われていました。 大阪大学の野﨑一徳先生による歯科教育DXについてのオンラインレクチャー、本学歯学研究院の上田康夫先生による本学歯学部におけるDXの現状講演、歯学研究院でDXや生成AIを取り入れている先生方の事例紹介を受けて、グループでの議論は大いに盛り上がっていました。

担当セッション:「自分の授業専用AI」を試作する

前日からの濃密な議論を受けて先生方の熱気も高まる中、2日目午後の私が担当する演習パートでは、以下のステップで「授業用生成AI」のカスタマイズを行いました。

  1. ゴールの言語化: 「生成AIの使用頻度」と「今日作りたいAIの姿」をSlidoの回答で確認。
  2. システムプロンプト作成: Notionで用意した手引きと私が作成した「カスタム支援AI」を使い、AIへの指示文を作成。
  3. プロトタイプ構築: ChatGPT(有料版)のGPTs、またはPoe(無料版)に実装。
  4. 相互評価: 私が作成した「作品ギャラリーサイト」に投稿し、互いに動作確認。

冒頭のSlidoの回答では「フィードバック自動化」や「資料作成支援」など、現場の多忙さを反映したニーズが多く見られました。時間はタイトでしたが、多くの方が「ひとまず動く形」まで到達できたことは大きな成果です。 一方で、事前資料の拡充や、当日説明の重点の置き方、説明の補足など、研修の質をさらに高めるための改善点も見つかりました。

所感と示唆:「置き換え」から「再構築」「設計」へ

2日間の長丁場にもかかわらず、全体が極めてスムーズに進行したのは、タスクフォースによる綿密な事前シミュレーションの賜物です。運営が安定しているからこそ、参加者は議論の中身に集中できていました。

WSで印象に残った点としては、DXやAI活用を議論する際に、当初は「既存作業の置き換えやツールの導入」に偏りがちだった点です。これは、時短や効率化の要請が強い現場の切迫した感覚を反映してのものでしょう。しかしレクチャーを受け、グループでの議論を深めていく中で、「この課題の目的は何か?」「AIがあるなら、この課題は減らせるのではないか?」といった本質的な問い直しも見られるようになりました。こうした視点こそ、「再構築」が重要な「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」につながるものです。

また、教育面のDXでは、ELMS(本学のLMSでありMoodleを基盤とする学習管理システム)の活用が課題として多く挙げられていた点も示唆的でした。LMSは導入するだけでは効果が出にくく、設計、運用、評価の一連を授業設計と接続させる必要があります。この点は今後のテーマとして検討に値すると感じました。

部局の文脈に入り込み、その土壌の上で技術支援を行うことの重要性を再認識した2日間でした。普段は全学FDになかなか参加できない先生と直接お話しできたのも大きな収穫で、CTLを知ってもらう良いきっかけになりました。今後もCTLとして、こうした部局ごとの「文化」や「文脈」を尊重した伴走支援を続けていきたいと思います。